反AIのイラストレーターに対して批判的だったり二次創作のリスペクト論を嫌ってたりするのに、パルワールドに対しては否定的なのに驚きました。高松さん的にはダブスタではないんでしょうか。
ホットな話題なので早めに答えたいと思います。

先に結論を言うと僕が嫌がっているのはパルワールドというゲームそのものというよりも「パルワールドがインディーとして歴史的な大ヒットを記録したという現象」に対してであって、パルワールドのデザインチョイスが倫理的にどうかについては比較的どうでもよく、強いて言うならば容認派だと思います。なので特にダブスタだとも思いませんが、とはいえ数年前に比べたらだいぶクリエイターに歩み寄った考え方をするようになったとは思います。

ちなみにインターネットでは今回の件についていろいろな言及があり論点が錯綜しているように言われていますが、結局のところ「パルワールドのモンスターデザインは倫理的・道徳的にいかがなものか?」というのが一番の焦点であると思います。ここで混沌を生みがちなポイントが2つあると思っていて、そのうちひとつめが「ゲームデザインではなくモンスターデザイン(アートスタイル)の話である」ということです。

ゲームの世界においてゲームデザインがパクりパクられ上等の世界であることは、ゲームを趣味にしている人にとっては自明のことだと思います。もしこれが「パルワールドはARKをパクっていてけしからん!」という話なのであれば、シャドウバースを作っている人間もプレイしている人間も全員逮捕されるべきでしょう。そもそもこの「ゲームデザインをパクるなんてけしからん!」と強く主張している人を僕はほぼ観測できておらず、逆に「そんなことを言うなんてなんも分かっちょらん」と嗜める人間は無限に目につくため、架空の敵を全員で袋叩きにしている状態に近そうです。この「誰が見ても明確に間違っている主張」が空気から作り上げられ、それをみんなで論破する構図はインターネットではよく見られますが、そこに実際の対立は存在していません。なので今回の件についても「ゲームデザインの模倣」について触れている主張は全てノイズとみなして問題ないと思います。

もうひとつのポイントが、「あくまで道徳的・倫理的にどうなのか」という点だということです。パルワールドのモンスターデザインが露骨にポケモンっぽいのが知的財産権の侵害にあたるかどうかの法的な議論については、結局のところ当事者間の問題に過ぎず、権利者が動かない限り進展は起こり得ません。なので外野は「法的にどうかは分からないけど、モラル的にどうなんだ」という議論に終始することになります。これも個人的にインターネットでは非常によくある構図だと思っていて、この手の議論で自分の立場や道徳的価値観を表明することには意味があると思います。ですが、法律と違って道徳や倫理の線引きが各個人の立場や価値観に大きく左右される以上、反対陣営に対して「お前は非道徳的だ!」と糾弾したところで歩み寄りが生まれる可能性は限りなく低く、この手の主張はかなり時間と労力の無駄です。ただし、繰り返すようですがこういった分断が発生した時に自分の感覚や違和感を分析して言語化する試み自体には大いに意味があると思います。「嫌なものについて無理にロジックを後付けせず、嫌だから嫌、というままにしておいたほうが楽」というようなツイートも回ってきましたが、個人的にこれはモブの論理であり、ここの努力を怠り「なんとなく好き」「なんとなく嫌い」のまま一生放置する人間の意見はどんどんその価値が落ちていくと思います。

ここからは自分の主張に戻りますが、個人的にパルワールドのモンスターデザインについては「かなりラインは攻めてるけど別にいいんじゃない」くらいの立場です。別に嫌悪感はありませんが、「楽をしてんな~」とは思います。この手抜き感がポイントで、今回の件で僕が嫌だったのは「インディーの世界からついに出た、サイパンやエルデンリングのようなAAAタイトルに並ぶスマッシュヒット作品」がよりにもよってこれだったことです。パルワールドが面白いゲームであることは疑っていませんが、このゲームの開発理念が(ある種の夢追い人と言ってもいい)多くのインディー開発者とは違って、非常に現実的で商業的な打算に基づくものであることは明らかであるように思います。この手のゲームにおいてモンスターのデザイン部分は「手間に見合ってはいないが、一番こだわりを見せられる部分」でもありますよね。そこで躊躇なくこのパクリデザインを採用できることが、「売れるゲームを作るために最小限の労力で最大のリターンを出す」開発者たちのスタンスを何より雄弁に物語っていると思います。

もちろんこれは全く悪いことではなく、彼らのゲームは爆売れしていて、自分たちの打ち立てた目標を完璧に遂行してみせています。ちゃんとゲームとして面白く仕上がっているのも彼らの有能さの証明でしょう。ただ夢を追って「インディーゲーム」というパチンコ市場に身を投じる開発者たちを長らく身近に見てきた身とすれば、パルワールドが、そしてパルワールドが生まれる過程が「インディーゲーム市場における勝利の方程式」となってしまったことについてはやはり「夢がないな」と思ってしまいます。どのマーケットもそうかもしれませんが、インディーゲーム市場においてもやはり、面白くて情熱がこもったゲームが必ずしも売れるとは限りません。それでも「真に面白いインディーゲーム」であれば『Celeste』や『Slay the Spire』というような巨人たちも越えて、AAAタイトルに迫る商業的な成功を収めることができるのかもしれない。それは夢追い人たちのささやかな祈りだったと思うのですが、まあ現実はパルワールドが600万本ということで、まあ悲しい話です。これは。

まとめると、パルワールドのパクリが良いか悪いかはどうでもよくて、どっちかといえば別に良いと思っていて、それよりもパルワールドがハチャメチャに売れちゃったという事実が個人的には悲しいだけということです。

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