お題
プライドを理性ごとへし折る後輩OLサキュバスちゃん
返信されたポスト
ユーザーアイコン
防砂林
@goodriddance_me
お題提供誠にありがとうございます!
お題提供者様の想定していたニュアンスとは異なっている気がしますが、これが今の僕の引き出しの限界です。お気に召して頂ければ幸いです。

ーーーー以下本文ーーーー

 私が入社してから3年、後輩のサキュバスが入社してきた。我が社は地元の小さな電子楽器メーカーで、業界柄男ばかりな我が社にサキュバスが入社するとなって、経営陣は戦々恐々と社内の風紀を案じていた。
 しかしそれは全くの杞憂であった。彼女は身持ちが堅く、世間一般にイメージされるようなサキュバスとは一線を画していた。我が社は風紀が乱れるどころか、彼女にいい格好をしたい社員たちの不純な頑張りによって業績を伸ばすのだった。社長はホクホクだが、皆が我が社の製品を愛して仕事をしている訳ではないと改めて分かって、むしろ私は憤ろしく思った。
 彼女は意外にも私と同じ開発部に配属された。想像以上にマニアックな知識を備えた彼女はいつもユニークな製品を発案している。実際に企画が通るのは、我が社の生産能力が高くないこともありごく少数だが、とにかく多作な彼女はそれでも私よりも多くの製品を発売に至らしめている。悔しいことに、そのどれもが洗練されていて、使っていて楽しくなるようなアイデアが満載だ。
 恥を忍んで彼女に尋ねた。
「どうしたら××さんみたいに、素敵な製品がたくさん思いつくんですか?」
彼女は満面の笑みで言う。
「先輩だってすごいですよ!□□って先輩の企画だって聞きましたよ!私あれがお気に入りでここに入社したんです!だから、私が先輩に教えられることなんて……」
こんな顔で言うのだからきっと心からの言葉なのだが、プライドが邪魔してきて、揶揄われているように感じてしまう。
「お世辞は結構です。あなたがどう考えて企画をしているのかが知りたいんです。」
我ながらぶっきらぼうな物言いに彼女は少し悲しそうな顔になる。ああ、これはまた私の悪い癖だ、謝ろうと思い立ったところに、
「先輩の製品は本当に素敵なんですよ。ただ、ライト層のユーザーさんには難しすぎるんですよね。私は扱いやすくてどんなセッティングをしても面白い結果が得られるようなデザインを心がけてます。」
私の不躾な態度に真摯な回答で返されて、余計に自己嫌悪が深まった。
「失礼しました。丁寧に答えてくれてありがとうございます。」

 言われるまで気づかなかった自分の愚かしさを呪った。××さんの言う通り、私の製品は「使いこなせるものなら使いこなしてみろ」と言わんばかりのデザインをしている。その会話以来、××さんの言葉に囚われてデザインに取り組んだ。とにかく必要なコントロールだけを盛り込んで、誰か使っても面白い音が出てくるように研ぎ澄ます。
 だが、それはそれで彼女の製品にそっくりな二番煎じのようなものばかりが出来る。ブレッドボードに試作をしては解体してを繰り返し、いつも以上にデスクに齧りつく時間が増え、ギリギリまで残業をするのが日常になった。
 彼女はいつも通り、定時ピッタリで仕事をしているのに、大量の試作を仕上げて楽しげにプレゼン資料をまとめている。その様子は対面のデスクの私の視界に否応なしに入ってきて、焦りを加速させる。
 それが日常になり始めたころのことである。
「先輩……今日は一緒に定時で上がってお食事しませんか……?」
彼女が恐る恐る私を誘ってきた。また私のエゴが、彼女を邪険に扱ってしまおうと囁くが、同じ失敗を繰り返す訳にはいかない。それに彼女からアイデアを授かるチャンスかもしれない。快くとはいかないが、誘いを受けることにした。

 いらぬ浮名を流すのを嫌って、職場から少し離れたダイニングバーへ入った。
「先輩……差し出がましいんですが……先輩の考える製品は、今までのままがいいです。」
食事を待つ間、ちびちびと酒を呷りつつ、彼女はそう切り出した。
「誰にだって得意不得意があるんですから、そんなに思い詰めてる先輩見てたら、私まで辛いです……。」
まるで恋人や兄弟に向けるような言葉に面食らう。自惚れるようだが、私が勝手にライバル視している彼女にそんなに大事に思われるのは、なんだか妙な気分だ。
「気持ちは嬉しいですが、会社のお荷物になる訳にはいきません。□□の一発屋だと思われるなんてまっぴらです。このままでは開発にすらいられなくなるかも……。」
「もう、やめてくださいよぉ!今日は楽しく食べて飲みましょうよ。きっといい心の栄養になりますから!」
発想力、人柄のいずれも自分より優れた後輩の存在に私の心は真っ平らに潰されたようだった。
 彼女への敗北宣言とばかりに、促されるまま私の学生時代のことや、音楽に触れたきっかけなど、誰が面白がるのだろうという話をした。彼女はとても楽しげにそれに相槌をうつ。これが淫魔の餌探しの方法なのかとも疑ったが、彼女と話す心地良さに溺れ始めていた。
 気づけば終電が間もなく最寄り駅を発つ頃だ。
「今日はありがとうございました。××さんの言う『心の栄養』を沢山いただけました。」
席を立ってお会計をしようとすると、彼女は私の手を握った。
「先輩、明日はお休みですよね。」
いくら相手が私のライバルたる……否、尊敬する開発者であっても、一人の淫魔である。そう易々と一晩一緒に過ごす訳にはいかない。
「朝まで一緒にいましょうよ。」
それなのに、私が感じている劣等感であったり、尊敬であったりを利用する気などは毛頭ないとでも言うような眼差しに、苛立ちと抗いがたい魅力を感じてしまう。サキュバスお得意のチャームとやらかとも疑ったが、体験者はみなその時の意識が曖昧だったと聞く。認めたくはないが、単に私が彼女に絆されているのだ。
「先輩が心配なのは分かります。私はサキュバスですから。でも、先輩が嫌がることだけは絶対にしませんから。お願いです……。」
 何軒かはしご酒をして、彼女と談笑する。彼女の豊かな人間性と並々ならぬ電子回路と音楽への知識の由来に触れ、私は彼女の足元にも及ばないのだと改めて悟る。入社したてでヒット商品のたたき台を作った程度の私が敵う相手ではないのだ。
 夜が深まり二人とも少し眠たくなってくる。帰る手立てもないのでラブホテルの一室に入ることにした。これだけ彼女に有利な状況なのに、乱暴な手段に訴えることはなかった。私は興味本位で尋ねた。
「失礼ですが、××さんはサキュバスとしての食事には困らないのですか。私の学生の頃の知り合いのサキュバスたちは皆、手近な男性と関係を持っていました。」
流石に踏み込みすぎて気分を害したかと心配したが、彼女はあっけらかんと答えた。
「実は、私たちサキュバスには国から人工精液が支給されます。だから、今の時代、別に人間の男性と交わらなくたって生きていくのには困りません。そういう方は、単純に行為を楽しんでいるか、お相手の方が好きかという感じですね。」
一転おずおずと言葉を継ぐ彼女。
「それでですね……私は音楽くらいしか興味がなくて、男性とは関係を持ったことがないんですが……先輩が好きでたまらなくて、こんなことを……してしまいました。」
「勿論、チャームだとか卑怯な事をするつもりはありません。約束は守ります。それでも、もし先輩が私を受け入れてくださるなら、そういうこともして欲しいんです。」
「先輩は、私が大好きなシンセを作った人で、ウチの製品がとにかく好きで、それに真っ直ぐで、そのためなら立場関係なく学ぼうとして……。先輩を見ていると私なんてまだまだだなって感じさせられます。そんな先輩に私を愛して欲しいと思ってしまったんです。」
彼女は私が彼女に抱いていたのと、ちょうど同じような感情を持っていたらしい。そうだと思うと自分の惨めさが際立つ一方で、彼女が愛しくてたまらなくなる。彼女もまた、人間のように思い悩み、恋をする存在なのだ。
 私は卑劣にも自分の思いを言葉にする代わりに、彼女にそっと口づけした。

防砂林さんにお題を送る

防砂林
ID:goodriddance_me

不肖、防砂林に書いてほしい愛重・ヤンデレキャラクターを募集しています。 ネタが切れているタイミングで順次消化させて頂きます。 投稿の際は、以下をご留意ください。 ・TS、百合は一切書けません。 ・大…

防砂林さんの他のポスト