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椎名 杏子
@myosotis0204
「寿幸さんって……痕付けるのどうしてそんなに上手いんですか……?」
「どうしたんだい、急に……」
心地よい夜風が障子の隙間から吹き込む夜。
寝室の敷布の上で、雛子と寿幸は向き合っていた。
寿幸の手首に触れたまま、雛子は頬を思わず膨らませる。
(こんなはずじゃなかったのに……)
濃褐色の瞳がじっと、寿幸の手首を見つめる。
寿幸の内側の手首には赤紫に滲んだ痕が付いていた。
綺麗な丸い痕ではなく、少し歪な痕。
「だって、綺麗に付かないから……」
そう言って触れている寿幸の手首を見て、雛子は唇を噛み締めた。
いつも寿幸に付けてもらっている痕を、自分も残してみたい。
そう思って、雛子は寿幸の手首を選んだ。
初めて自分から付けた印。
寿幸に見てもらいたくて、わざと目に入る場所を選んだはずなのに。
雛子の目には何度見ても、歪んだ痕しか残っていなかった。
「私も……寿幸さんみたいに、綺麗な痕を付けたいです」
少しはだけた寝間着の隙間から、寿幸の付けた痕が覗く。
鎖骨付近に付けられた痕は、雛子が付けた痕とは違い、うっすら赤く染まっていた。
綺麗な円を描き、痛みもそこまでない。
それに比べて、雛子の残した痕は不格好だった。
力任せに思いっきり寿幸の手首を吸ったのだ。
「痛い」と寿幸はその言葉を口にしなかったが――誰がどう見ても痛いに決まっている。
「痛かったですよね……?ごめんなさい……」
「そんな事を気にしているのかい、雛子?……全く痛くないよ」
そう寿幸が言うと、雛子はむっとした表情で「嘘つき」とまた頬を膨らませた。
眉をひそめ、「本当の事言っていいんですよ……」と、しょぼくれた声で呟いては俯く。
そんな雛子に、寿幸は微笑んだ。
「嘘じゃないよ」
「だって、こんな色になってるんですよ?痛いに決まってます」
雛子の白い指先が、そっと寿幸の手首に触れる。
赤紫に滲んだ痕を、恐る恐る撫でた。
(どうしてうまくいかないんだろう……)
雛子の濃褐色の瞳から、涙が零れそうになる。
本当は上手く付けて寿幸に喜んで もらいたかった。
いつも付けられているばかりで、付けられる度に寿幸に付けてみたいと何度も思った。
夫婦なのに寿幸だけが痕を付ける。
それが雛子にとって、ズルいと思ってしまった――
「雛子」
低く、雛子を呼ぶ声に思わず顔を上げた。
優しい灰緑の瞳が、雛子を見つめている。
その表情はとても優しく、雛子の胸につかえていたものを少しだけ解いていく。
「私は雛子が付ける痕の方が好きだよ」
「……どうして?」
不思議そうに首を傾げ、濃褐色の瞳がじっと寿幸を見上げる。
(だって、君が私に痕を付けてくれるだけで――私は満たされるんだ)
痕を付けようと、一生懸命に吸う愛らしい雛子の唇。
何度も唇を離しては、付いているか濃褐色の瞳で確認していた。
頬を赤く染め、「まだ付いてない……」と小さく漏らしては、また唇を寄せる。
ちゅっと音を立て吸い付き、不器用に力任せに口を窄める。
力任せに吸うせいか、雛子に痕を残される時、皮膚に痛みが走る。
けれど、その仕草一つ一つが愛おしくて、強く吸われた痛みなど気にならないほどだった。
否――その痛みすら、雛子が与えるものであるから受け入れられる。
(それに、あの場所へ口づけていることも……雛子にとっては無意識なんだろうな)
わざと寿幸から見える位置を選んだのは知っている。
けれど、その意味を――雛子は知らない。
寿幸は、雛子に触れられていた手首をそっと引き、彼女の頬を撫でた。
柔らかい雛子の頬を撫でれば、雛子は気持ちよさそうに手に頬を擦り付けた。
手首へのキスは、“相手を 自分だけのものにしたい”という心の表れだ。
けれど寿幸がそのことを、雛子に伝えるつもりはさらさらない。
(きっと、そう素直に伝えてしまえば――雛子は恥ずかしがって付けてくれなくなるんだろうな…)
くくくと、喉を鳴らしては灰緑の瞳が雛子を見つめる。
頬を撫でるのを止め、自分の方に手を引き寄せては、口元を緩める。
先程雛子に付けられた手首の痕は、綺麗な丸ではなく、力任せに吸ったせいで赤紫に滲んでいた。
「それだけ必死に私に痕を付けようとする雛子が……可愛らしくてたまらないからね」
そう言って、寿幸は雛子が残した不格好な痕へそっと唇を寄せる。
赤紫に滲むその痕は、決して綺麗とは言えない。
けれど――寿幸にとっては、誰にも奪えない愛しい証だった。
「あぁ、雛子……愛しているよ」
まるで大切なものを慈しむように。
寿幸は、自分の手首に残された痕へ静かに口づけを落とした―――…
「どうしたんだい、急に……」
心地よい夜風が障子の隙間から吹き込む夜。
寝室の敷布の上で、雛子と寿幸は向き合っていた。
寿幸の手首に触れたまま、雛子は頬を思わず膨らませる。
(こんなはずじゃなかったのに……)
濃褐色の瞳がじっと、寿幸の手首を見つめる。
寿幸の内側の手首には赤紫に滲んだ痕が付いていた。
綺麗な丸い痕ではなく、少し歪な痕。
「だって、綺麗に付かないから……」
そう言って触れている寿幸の手首を見て、雛子は唇を噛み締めた。
いつも寿幸に付けてもらっている痕を、自分も残してみたい。
そう思って、雛子は寿幸の手首を選んだ。
初めて自分から付けた印。
寿幸に見てもらいたくて、わざと目に入る場所を選んだはずなのに。
雛子の目には何度見ても、歪んだ痕しか残っていなかった。
「私も……寿幸さんみたいに、綺麗な痕を付けたいです」
少しはだけた寝間着の隙間から、寿幸の付けた痕が覗く。
鎖骨付近に付けられた痕は、雛子が付けた痕とは違い、うっすら赤く染まっていた。
綺麗な円を描き、痛みもそこまでない。
それに比べて、雛子の残した痕は不格好だった。
力任せに思いっきり寿幸の手首を吸ったのだ。
「痛い」と寿幸はその言葉を口にしなかったが――誰がどう見ても痛いに決まっている。
「痛かったですよね……?ごめんなさい……」
「そんな事を気にしているのかい、雛子?……全く痛くないよ」
そう寿幸が言うと、雛子はむっとした表情で「嘘つき」とまた頬を膨らませた。
眉をひそめ、「本当の事言っていいんですよ……」と、しょぼくれた声で呟いては俯く。
そんな雛子に、寿幸は微笑んだ。
「嘘じゃないよ」
「だって、こんな色になってるんですよ?痛いに決まってます」
雛子の白い指先が、そっと寿幸の手首に触れる。
赤紫に滲んだ痕を、恐る恐る撫でた。
(どうしてうまくいかないんだろう……)
雛子の濃褐色の瞳から、涙が零れそうになる。
本当は上手く付けて寿幸に喜んで もらいたかった。
いつも付けられているばかりで、付けられる度に寿幸に付けてみたいと何度も思った。
夫婦なのに寿幸だけが痕を付ける。
それが雛子にとって、ズルいと思ってしまった――
「雛子」
低く、雛子を呼ぶ声に思わず顔を上げた。
優しい灰緑の瞳が、雛子を見つめている。
その表情はとても優しく、雛子の胸につかえていたものを少しだけ解いていく。
「私は雛子が付ける痕の方が好きだよ」
「……どうして?」
不思議そうに首を傾げ、濃褐色の瞳がじっと寿幸を見上げる。
(だって、君が私に痕を付けてくれるだけで――私は満たされるんだ)
痕を付けようと、一生懸命に吸う愛らしい雛子の唇。
何度も唇を離しては、付いているか濃褐色の瞳で確認していた。
頬を赤く染め、「まだ付いてない……」と小さく漏らしては、また唇を寄せる。
ちゅっと音を立て吸い付き、不器用に力任せに口を窄める。
力任せに吸うせいか、雛子に痕を残される時、皮膚に痛みが走る。
けれど、その仕草一つ一つが愛おしくて、強く吸われた痛みなど気にならないほどだった。
否――その痛みすら、雛子が与えるものであるから受け入れられる。
(それに、あの場所へ口づけていることも……雛子にとっては無意識なんだろうな)
わざと寿幸から見える位置を選んだのは知っている。
けれど、その意味を――雛子は知らない。
寿幸は、雛子に触れられていた手首をそっと引き、彼女の頬を撫でた。
柔らかい雛子の頬を撫でれば、雛子は気持ちよさそうに手に頬を擦り付けた。
手首へのキスは、“相手を 自分だけのものにしたい”という心の表れだ。
けれど寿幸がそのことを、雛子に伝えるつもりはさらさらない。
(きっと、そう素直に伝えてしまえば――雛子は恥ずかしがって付けてくれなくなるんだろうな…)
くくくと、喉を鳴らしては灰緑の瞳が雛子を見つめる。
頬を撫でるのを止め、自分の方に手を引き寄せては、口元を緩める。
先程雛子に付けられた手首の痕は、綺麗な丸ではなく、力任せに吸ったせいで赤紫に滲んでいた。
「それだけ必死に私に痕を付けようとする雛子が……可愛らしくてたまらないからね」
そう言って、寿幸は雛子が残した不格好な痕へそっと唇を寄せる。
赤紫に滲むその痕は、決して綺麗とは言えない。
けれど――寿幸にとっては、誰にも奪えない愛しい証だった。
「あぁ、雛子……愛しているよ」
まるで大切なものを慈しむように。
寿幸は、自分の手首に残された痕へ静かに口づけを落とした―――…
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