お題
寒くなってきたので、「成人男性組」と「防寒グッズ」がテーマのお話が見てみたいです。
防寒グッズはカイロでも手袋でもマフラーでもコートでも、なんでもいいです。きょうかさんのお好きなものを選んでください。
防寒グッズはカイロでも手袋でもマフラーでもコートでも、なんでもいいです。きょうかさんのお好きなものを選んでください。
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きょうか
@kyoka_h
『ニューイヤー・ハッピー・セーター』
あと数時間で火星も新しい年を迎えようとしていた。
年の瀬らしくたまには蕎麦でも食べようか──そう思って商店街をぶらり歩きしていたトマトだったが、ポケットの中でスマホが震えているのに気がついて足を止める。
「着信……薩っちゃんからだ……もしもし?」
トマトが電話に出ると、いつも通り元気な薩摩の声が耳をつんざく。
『トーマトくーん! 3人で一緒に年越しするにゃ!』
「えっ、いいけど……どこで? 何か買ってった方がいい?」
『さっき右近でテイクアウトしたから大丈夫にゃ〜。場所は僕たちの寮のお部屋取ってあるから、今どこにいるか教えてくれたら迎えに行くよ〜』
『……さ、薩摩さん! この部屋、事前に申請が必要なんですけど……!』
『食堂のおばちゃんに聞いたから知ってるよぉ〜』
『……ま、まさか食堂のおばちゃんに書類代筆させたんですか……!』
『僕が書くよりおばちゃんが書いた方が早いって言われたから、書いてもらったけど?』
『あぁぁ〜〜……』
電話の向こうで薩摩と守が何やら言い合っているのが聞こえた。
寮の部屋と言われた時には部外者の自分が立ち入って大丈夫なのか一瞬不安になったが、守とのやり取りを聞く限りでは薩摩はおそらく寮の共有スペースのような部屋を借り受けたものと思われるのできっと問題ないだろう。それにもう守と合流しているようだったから、トマトが行っても本当に平気なのかどうかは薩摩が迎えに来るまでの間に守に連絡して確認すればいい話だ。
「薩っちゃん? じゃあオレ、ふくろんふぃでお買い物するから、ふくろんふぃ集合でいい?」
『オッケーにゃ!』
そう言うなり電話が切れる。
寮がどのあたりにあるのかは知らないが、薩摩のことだからきっとひとっ飛びでやって来るに違いない──そう思ったトマトはすかさず守に電話をかけ、詳細を確認しながらふくろんふぃへと向かったのだった。
薩摩は予想通りトマトの買い物が終わるか終わらないかのうちにやってきて、トマトを小脇に抱えると飛ぶように街を駆け抜けていった。相変わらず出鱈目な機動力である。
「着いたにゃ!」
そう言って薩摩がトマトを下ろしたのは、オフィス街から程なく近いところに建つ、そこそこご立派なマンションのエントランスだった。
寮というとどうしても古式ゆかしい長屋のようなものを想像してしまうが、地球ならまだしもここは火星、現在進行形で開拓中の地である。独身寮といえど最新で快適な建築であるのは当然と言えば当然だった。
受付で訪問者用の手続きを済ませたトマトは、薩摩に連れられて寮の来客室に入る。
意外なことに、そこは和室であった。
8畳程度の部屋の中央には炬燵が設えられており、上には薩摩が買い込んだと思しき食料が山のように積まれている。
飲み物も並んでいるが、壁に「飲酒禁止」の張り紙がしてあるので、おそらくどれもノンアルコール飲料なのだろう。
そしてその傍では、先に連れ込まれて留守番をさせられていた守が所在なさげに正座していた。守はパーティー用の三角帽を被っておめでたい獅子舞こんふぃ柄のセーターを着ていたが、これは確実に薩摩に着せられたものだろうとトマトは看破した。
「い、いらっしゃい、トマトくん……薩摩さんが突然、すみません……」
「ううん、オレもひとりで年越しするよりはみんなで年越しできた方が楽しいからさ。薩っちゃん、守ちゃんも、ありがとね」
そうお礼の言葉を口にしたトマトは薩摩の方を見やり──薩摩もまた、おめでたい鏡餅こんふぃ柄のセーターを着込んでいることに気がついた。
そして、薩摩がうきうきと和室の片隅にあった袋を漁ってトマトに差し出してきたのは──門松こんふぃ柄のおめでたい色彩のセーターだった。
「はいこれ、トマトくんの分ね!」
薩摩のその無邪気な笑顔ときたら。
「えっと……薩っちゃん、これは……?」
「人間ぷっぷーは季節の柄のセーターを親しい人にプレゼントしてお祝いするんだよね? だからこれ、僕からのプレゼント!」
……確かに地球の一部の国では、季節の柄をふんだんに盛り込んだセーターをプレゼントする風習がなくもない。
『クリスマス・アグリー・セーター』
欧米人のトラウマ、おばあちゃんからクリスマスプレゼントにもらいがちな「外に着ていくのが恥ずかしい悪趣味な手編みのセーター」を逆に楽しもうというジョークプレゼントの一種である。
まさかそれのニューイヤー版を、火星でお目にかけるとは思ってもみなかったが。
しかも薩摩の表情を見るに、彼は孫にセーターを贈るおばあちゃんの如く、完全に良かれと思ってこれを用意しているのは明白であった。
ちらりと守の方に目を向けると、彼からは「諦めてください」と言いたげな視線が返ってきた。
確かにこのセーターは間違っても普段遣いできるような品ではない。
しかし、ポジティブに考えるならばだ。
今日という日、気の置けない友人たちと年越しパーティーを楽しんだ日の記念だと思えば、この全力で新年アピールをしているけばけばしさはむしろうってつけなのではないだろうか。
きっとこれは3人にとってのいい思い出になるに違いないから。
そう思ったトマトは薩摩に礼を言うとセーターを受け取り、それに袖を通した。
ちらりと見えてしまったタグが地球から火星に出店したばかりの超高級ブランドのそれだったような気がするのは、見なかったことにしておく。
そうして3人は炬燵で暖まりながら、揃いの派手なセーターで、会話を弾ませながらもつ煮や年越し蕎麦に舌鼓を打った。
「ぼ、僕……こんなに賑やかな年越しをするのは、初めて……かも、しれません」
「オレも!」
「そーなの? 年越しってみんなパーティーするんじゃないの?」
「ぼ、僕たち日本人の場合は、ですけど……家族で、静かに過ごす人が多い……気がします……」
「友達の中には日付変わったらすぐにみんなで集まって初詣に行く!って子もいたけどねー」
「あぁ……いますよね、そういう元気な人たち……」
話はいつしか年越しの過ごし方談義になり、火星の多国籍・多星籍な年越し文化しか知らない薩摩に、守とトマトのふたりが日本風の年越しを語って聞かせる構図となった。
とはいえふたりともそこまで伝統にこだわりがある方ではないので、あくまで実体験をもとに雰囲気を伝えただけなのだが。
それでも薩摩の興味を惹くには十分だったらしい。
そして火星にも螢惑神社が建立されており、そこでは日本と同様の光景が展開されていると知った薩摩は目を輝かせた。
「屋台……甘酒……僕たちも初詣行くにゃ!」
「い、今からですか?」
「もちろんにゃ!」
何もわざわざ自ら混雑に突っ込むような真似をしなくても……という表情を守は浮かべたが、一旦乗り気になった薩摩を止めるのは至難の業であることを彼はよく知っている。
「今から行ったら神社に着く頃にちょうど新年迎えそうだね!」
そしてトマトもまんざらではなさそうな感じとあれば、行かないという選択肢は最早ないのであった。
3人はコートを羽織り、連れ立って螢惑神社へと向かった。
なお、3人とも例のセーターを着たままであることをすっかり失念しており、ペアルックならぬトリオルックに身を包んだ成人男性3人が葱の輪くぐりに興じたり屋台飯を堪能したりしている様子が目撃され、しばらく話題になったことは言うまでもなかった。
おわり
あと数時間で火星も新しい年を迎えようとしていた。
年の瀬らしくたまには蕎麦でも食べようか──そう思って商店街をぶらり歩きしていたトマトだったが、ポケットの中でスマホが震えているのに気がついて足を止める。
「着信……薩っちゃんからだ……もしもし?」
トマトが電話に出ると、いつも通り元気な薩摩の声が耳をつんざく。
『トーマトくーん! 3人で一緒に年越しするにゃ!』
「えっ、いいけど……どこで? 何か買ってった方がいい?」
『さっき右近でテイクアウトしたから大丈夫にゃ〜。場所は僕たちの寮のお部屋取ってあるから、今どこにいるか教えてくれたら迎えに行くよ〜』
『……さ、薩摩さん! この部屋、事前に申請が必要なんですけど……!』
『食堂のおばちゃんに聞いたから知ってるよぉ〜』
『……ま、まさか食堂のおばちゃんに書類代筆させたんですか……!』
『僕が書くよりおばちゃんが書いた方が早いって言われたから、書いてもらったけど?』
『あぁぁ〜〜……』
電話の向こうで薩摩と守が何やら言い合っているのが聞こえた。
寮の部屋と言われた時には部外者の自分が立ち入って大丈夫なのか一瞬不安になったが、守とのやり取りを聞く限りでは薩摩はおそらく寮の共有スペースのような部屋を借り受けたものと思われるのできっと問題ないだろう。それにもう守と合流しているようだったから、トマトが行っても本当に平気なのかどうかは薩摩が迎えに来るまでの間に守に連絡して確認すればいい話だ。
「薩っちゃん? じゃあオレ、ふくろんふぃでお買い物するから、ふくろんふぃ集合でいい?」
『オッケーにゃ!』
そう言うなり電話が切れる。
寮がどのあたりにあるのかは知らないが、薩摩のことだからきっとひとっ飛びでやって来るに違いない──そう思ったトマトはすかさず守に電話をかけ、詳細を確認しながらふくろんふぃへと向かったのだった。
薩摩は予想通りトマトの買い物が終わるか終わらないかのうちにやってきて、トマトを小脇に抱えると飛ぶように街を駆け抜けていった。相変わらず出鱈目な機動力である。
「着いたにゃ!」
そう言って薩摩がトマトを下ろしたのは、オフィス街から程なく近いところに建つ、そこそこご立派なマンションのエントランスだった。
寮というとどうしても古式ゆかしい長屋のようなものを想像してしまうが、地球ならまだしもここは火星、現在進行形で開拓中の地である。独身寮といえど最新で快適な建築であるのは当然と言えば当然だった。
受付で訪問者用の手続きを済ませたトマトは、薩摩に連れられて寮の来客室に入る。
意外なことに、そこは和室であった。
8畳程度の部屋の中央には炬燵が設えられており、上には薩摩が買い込んだと思しき食料が山のように積まれている。
飲み物も並んでいるが、壁に「飲酒禁止」の張り紙がしてあるので、おそらくどれもノンアルコール飲料なのだろう。
そしてその傍では、先に連れ込まれて留守番をさせられていた守が所在なさげに正座していた。守はパーティー用の三角帽を被っておめでたい獅子舞こんふぃ柄のセーターを着ていたが、これは確実に薩摩に着せられたものだろうとトマトは看破した。
「い、いらっしゃい、トマトくん……薩摩さんが突然、すみません……」
「ううん、オレもひとりで年越しするよりはみんなで年越しできた方が楽しいからさ。薩っちゃん、守ちゃんも、ありがとね」
そうお礼の言葉を口にしたトマトは薩摩の方を見やり──薩摩もまた、おめでたい鏡餅こんふぃ柄のセーターを着込んでいることに気がついた。
そして、薩摩がうきうきと和室の片隅にあった袋を漁ってトマトに差し出してきたのは──門松こんふぃ柄のおめでたい色彩のセーターだった。
「はいこれ、トマトくんの分ね!」
薩摩のその無邪気な笑顔ときたら。
「えっと……薩っちゃん、これは……?」
「人間ぷっぷーは季節の柄のセーターを親しい人にプレゼントしてお祝いするんだよね? だからこれ、僕からのプレゼント!」
……確かに地球の一部の国では、季節の柄をふんだんに盛り込んだセーターをプレゼントする風習がなくもない。
『クリスマス・アグリー・セーター』
欧米人のトラウマ、おばあちゃんからクリスマスプレゼントにもらいがちな「外に着ていくのが恥ずかしい悪趣味な手編みのセーター」を逆に楽しもうというジョークプレゼントの一種である。
まさかそれのニューイヤー版を、火星でお目にかけるとは思ってもみなかったが。
しかも薩摩の表情を見るに、彼は孫にセーターを贈るおばあちゃんの如く、完全に良かれと思ってこれを用意しているのは明白であった。
ちらりと守の方に目を向けると、彼からは「諦めてください」と言いたげな視線が返ってきた。
確かにこのセーターは間違っても普段遣いできるような品ではない。
しかし、ポジティブに考えるならばだ。
今日という日、気の置けない友人たちと年越しパーティーを楽しんだ日の記念だと思えば、この全力で新年アピールをしているけばけばしさはむしろうってつけなのではないだろうか。
きっとこれは3人にとってのいい思い出になるに違いないから。
そう思ったトマトは薩摩に礼を言うとセーターを受け取り、それに袖を通した。
ちらりと見えてしまったタグが地球から火星に出店したばかりの超高級ブランドのそれだったような気がするのは、見なかったことにしておく。
そうして3人は炬燵で暖まりながら、揃いの派手なセーターで、会話を弾ませながらもつ煮や年越し蕎麦に舌鼓を打った。
「ぼ、僕……こんなに賑やかな年越しをするのは、初めて……かも、しれません」
「オレも!」
「そーなの? 年越しってみんなパーティーするんじゃないの?」
「ぼ、僕たち日本人の場合は、ですけど……家族で、静かに過ごす人が多い……気がします……」
「友達の中には日付変わったらすぐにみんなで集まって初詣に行く!って子もいたけどねー」
「あぁ……いますよね、そういう元気な人たち……」
話はいつしか年越しの過ごし方談義になり、火星の多国籍・多星籍な年越し文化しか知らない薩摩に、守とトマトのふたりが日本風の年越しを語って聞かせる構図となった。
とはいえふたりともそこまで伝統にこだわりがある方ではないので、あくまで実体験をもとに雰囲気を伝えただけなのだが。
それでも薩摩の興味を惹くには十分だったらしい。
そして火星にも螢惑神社が建立されており、そこでは日本と同様の光景が展開されていると知った薩摩は目を輝かせた。
「屋台……甘酒……僕たちも初詣行くにゃ!」
「い、今からですか?」
「もちろんにゃ!」
何もわざわざ自ら混雑に突っ込むような真似をしなくても……という表情を守は浮かべたが、一旦乗り気になった薩摩を止めるのは至難の業であることを彼はよく知っている。
「今から行ったら神社に着く頃にちょうど新年迎えそうだね!」
そしてトマトもまんざらではなさそうな感じとあれば、行かないという選択肢は最早ないのであった。
3人はコートを羽織り、連れ立って螢惑神社へと向かった。
なお、3人とも例のセーターを着たままであることをすっかり失念しており、ペアルックならぬトリオルックに身を包んだ成人男性3人が葱の輪くぐりに興じたり屋台飯を堪能したりしている様子が目撃され、しばらく話題になったことは言うまでもなかった。
おわり
きょうかさんにお題を送る
きょうかID:kyoka_h
書いてほしいバーチャル火星小説のシチュエーション、キャラなどを放り込んでください
ただしカップリング(恋愛関係)は公式(キャラのオーナーさん)が明言しているもの以外はNGとさせてください
お題が来たら…