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きょうか

@kyoka_h
書いてほしいバーチャル火星小説のシチュエーション、キャラなどを放り込んでください
ただしカップリング(恋愛関係)は公式(キャラのオーナーさん)が明言しているもの以外はNGとさせてください
お題が来たらがんばって書くつもりだけど、優先順位的にはSkeb>私個人の創作>お題箱になることご了承ください

きょうかのお題箱

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    • お題
      寒くなってきたので、「成人男性組」と「防寒グッズ」がテーマのお話が見てみたいです。
      防寒グッズはカイロでも手袋でもマフラーでもコートでも、なんでもいいです。きょうかさんのお好きなものを選んでください。
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      きょうか
      @kyoka_h
      『ニューイヤー・ハッピー・セーター』
      あと数時間で火星も新しい年を迎えようとしていた。
      年の瀬らしくたまには蕎麦でも食べようか──そう思って商店街をぶらり歩きしていたトマトだったが、ポケットの中でスマホが震えているのに気がついて足を止める。
      「着信……薩っちゃんからだ……もしもし?」
      トマトが電話に出ると、いつも通り元気な薩摩の声が耳をつんざく。
      『トーマトくーん! 3人で一緒に年越しするにゃ!』
      「えっ、いいけど……どこで? 何か買ってった方がいい?」
      『さっき右近でテイクアウトしたから大丈夫にゃ〜。場所は僕たちの寮のお部屋取ってあるから、今どこにいるか教えてくれたら迎えに行くよ〜』
      『……さ、薩摩さん! この部屋、事前に申請が必要なんですけど……!』
      『食堂のおばちゃんに聞いたから知ってるよぉ〜』
      『……ま、まさか食堂のおばちゃんに書類代筆させたんですか……!』
      『僕が書くよりおばちゃんが書いた方が早いって言われたから、書いてもらったけど?』
      『あぁぁ〜〜……』
      電話の向こうで薩摩と守が何やら言い合っているのが聞こえた。
      寮の部屋と言われた時には部外者の自分が立ち入って大丈夫なのか一瞬不安になったが、守とのやり取りを聞く限りでは薩摩はおそらく寮の共有スペースのような部屋を借り受けたものと思われるのできっと問題ないだろう。それにもう守と合流しているようだったから、トマトが行っても本当に平気なのかどうかは薩摩が迎えに来るまでの間に守に連絡して確認すればいい話だ。
      「薩っちゃん? じゃあオレ、ふくろんふぃでお買い物するから、ふくろんふぃ集合でいい?」
      『オッケーにゃ!』
      そう言うなり電話が切れる。
      寮がどのあたりにあるのかは知らないが、薩摩のことだからきっとひとっ飛びでやって来るに違いない──そう思ったトマトはすかさず守に電話をかけ、詳細を確認しながらふくろんふぃへと向かったのだった。

      薩摩は予想通りトマトの買い物が終わるか終わらないかのうちにやってきて、トマトを小脇に抱えると飛ぶように街を駆け抜けていった。相変わらず出鱈目な機動力である。
      「着いたにゃ!」
      そう言って薩摩がトマトを下ろしたのは、オフィス街から程なく近いところに建つ、そこそこご立派なマンションのエントランスだった。
      寮というとどうしても古式ゆかしい長屋のようなものを想像してしまうが、地球ならまだしもここは火星、現在進行形で開拓中の地である。独身寮といえど最新で快適な建築であるのは当然と言えば当然だった。
      受付で訪問者用の手続きを済ませたトマトは、薩摩に連れられて寮の来客室に入る。
      意外なことに、そこは和室であった。
      8畳程度の部屋の中央には炬燵が設えられており、上には薩摩が買い込んだと思しき食料が山のように積まれている。
      飲み物も並んでいるが、壁に「飲酒禁止」の張り紙がしてあるので、おそらくどれもノンアルコール飲料なのだろう。
      そしてその傍では、先に連れ込まれて留守番をさせられていた守が所在なさげに正座していた。守はパーティー用の三角帽を被っておめでたい獅子舞こんふぃ柄のセーターを着ていたが、これは確実に薩摩に着せられたものだろうとトマトは看破した。
      「い、いらっしゃい、トマトくん……薩摩さんが突然、すみません……」
      「ううん、オレもひとりで年越しするよりはみんなで年越しできた方が楽しいからさ。薩っちゃん、守ちゃんも、ありがとね」
      そうお礼の言葉を口にしたトマトは薩摩の方を見やり──薩摩もまた、おめでたい鏡餅こんふぃ柄のセーターを着込んでいることに気がついた。
      そして、薩摩がうきうきと和室の片隅にあった袋を漁ってトマトに差し出してきたのは──門松こんふぃ柄のおめでたい色彩のセーターだった。
      「はいこれ、トマトくんの分ね!」
      薩摩のその無邪気な笑顔ときたら。
      「えっと……薩っちゃん、これは……?」
      「人間ぷっぷーは季節の柄のセーターを親しい人にプレゼントしてお祝いするんだよね? だからこれ、僕からのプレゼント!」
      ……確かに地球の一部の国では、季節の柄をふんだんに盛り込んだセーターをプレゼントする風習がなくもない。
      『クリスマス・アグリー・セーター』
      欧米人のトラウマ、おばあちゃんからクリスマスプレゼントにもらいがちな「外に着ていくのが恥ずかしい悪趣味な手編みのセーター」を逆に楽しもうというジョークプレゼントの一種である。
      まさかそれのニューイヤー版を、火星でお目にかけるとは思ってもみなかったが。
      しかも薩摩の表情を見るに、彼は孫にセーターを贈るおばあちゃんの如く、完全に良かれと思ってこれを用意しているのは明白であった。
      ちらりと守の方に目を向けると、彼からは「諦めてください」と言いたげな視線が返ってきた。
      確かにこのセーターは間違っても普段遣いできるような品ではない。
      しかし、ポジティブに考えるならばだ。
      今日という日、気の置けない友人たちと年越しパーティーを楽しんだ日の記念だと思えば、この全力で新年アピールをしているけばけばしさはむしろうってつけなのではないだろうか。
      きっとこれは3人にとってのいい思い出になるに違いないから。
      そう思ったトマトは薩摩に礼を言うとセーターを受け取り、それに袖を通した。
      ちらりと見えてしまったタグが地球から火星に出店したばかりの超高級ブランドのそれだったような気がするのは、見なかったことにしておく。
      そうして3人は炬燵で暖まりながら、揃いの派手なセーターで、会話を弾ませながらもつ煮や年越し蕎麦に舌鼓を打った。
      「ぼ、僕……こんなに賑やかな年越しをするのは、初めて……かも、しれません」
      「オレも!」
      「そーなの? 年越しってみんなパーティーするんじゃないの?」
      「ぼ、僕たち日本人の場合は、ですけど……家族で、静かに過ごす人が多い……気がします……」
      「友達の中には日付変わったらすぐにみんなで集まって初詣に行く!って子もいたけどねー」
      「あぁ……いますよね、そういう元気な人たち……」
      話はいつしか年越しの過ごし方談義になり、火星の多国籍・多星籍な年越し文化しか知らない薩摩に、守とトマトのふたりが日本風の年越しを語って聞かせる構図となった。
      とはいえふたりともそこまで伝統にこだわりがある方ではないので、あくまで実体験をもとに雰囲気を伝えただけなのだが。
      それでも薩摩の興味を惹くには十分だったらしい。
      そして火星にも螢惑神社が建立されており、そこでは日本と同様の光景が展開されていると知った薩摩は目を輝かせた。
      「屋台……甘酒……僕たちも初詣行くにゃ!」
      「い、今からですか?」
      「もちろんにゃ!」
      何もわざわざ自ら混雑に突っ込むような真似をしなくても……という表情を守は浮かべたが、一旦乗り気になった薩摩を止めるのは至難の業であることを彼はよく知っている。
      「今から行ったら神社に着く頃にちょうど新年迎えそうだね!」
      そしてトマトもまんざらではなさそうな感じとあれば、行かないという選択肢は最早ないのであった。
      3人はコートを羽織り、連れ立って螢惑神社へと向かった。
      なお、3人とも例のセーターを着たままであることをすっかり失念しており、ペアルックならぬトリオルックに身を包んだ成人男性3人が葱の輪くぐりに興じたり屋台飯を堪能したりしている様子が目撃され、しばらく話題になったことは言うまでもなかった。

      おわり
    • お題
      ンバラ達がピクニックに行く話をお願いします。
      2人の姿ついては元の姿でもアバターでも考えやすい方で大丈夫です。
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      きょうか
      @kyoka_h
      火星ではいつも通りの、良く晴れたうららかな朝。
      白い方のンバラ──通称シロ──はいそいそと台所に立ち、何やら支度をしている。
      おにぎりは梅、紫蘇、昆布。
      それから少し甘い卵焼きに、鶏の照り焼き、ほうれん草のソテーにはコーンを添えて、デザートに甘いものを入れるのも忘れない。
      要はお弁当を作っていたのであった。
      それを二人分。
      しっかり粗熱を取ってからお重のような弁当箱に詰めて、ポットに冷たいお茶を入れれば準備は万端である。
      あとは自室でトレーニングに励んでいるだろう黒い方のンバラ──通称クロ──を呼びに行くだけだ。
      今日はクロに依頼は来ておらず一日オフなのは確認済みだ。灰色の彼方でのバイトもない。
      だったらやるべきことはこれしかない。
      「でぇと、です!」
      それもふたりきりでしっぽりできる場所がいい。
      ……というわけでシロは近くの高原へのピクニックを企画したのだった。
      中から微かにトレーニングの息遣いが聞こえるドアをノックする。
      「クロ、ちょっといいですか?」
      そう言うと、ドアが開いてトレーニングウェア姿のクロが出てきた。シロの推測通り、やはりトレーニングに励んでいたようである。
      「今日、お仕事ないですよね? ンバラ、ピクニックしたいです」
      そう言うシロの顔は期待に満ちていて、クロが断ることなど微塵も考えていないのが明らかだった。
      台所の方から漂う残り香から察するに、もうピクニックの支度も終えているのだろう。
      「……ンバラ、今、日課のトレーニング中なので。……終わってからなら行ってやってもいーです」
      シロの安全を第一義とし、護衛を自らの任務として課しているクロとしては、シロがどこかに出かけることを望むのなら同行する以外の選択肢は実はない。
      強いて言えば自分の伴侶だということで危ない連中に狙われる危険性があるので、できればシロにはあまりむやみやたらと外出してほしくないのが本音ではあるが、シロの願いを無碍にはできないのが惚れた弱みというものである。
      そういうわけで、クロの日課が終わるのを待って、ふたりは連れ立って近くの高原へと出かけたのだった。

      さて、ふたりが出かけたのは高原といっても市街地と地続きで、天候管理されている安全なエリアである。雰囲気的には近所のだだっ広い公園に近い。
      緑化も進んでおり、道端には秋桜が咲き、樹木の葉はほんのり色づいて、地球でいう「秋」の様相を呈している。
      絶好のピクニック日和だった。
      道すがら、シロは空を舞うトンボを見てははしゃぎ、木の実を見つけては「これ食べられるですかね?」と見つめ、草花を見ては足を止める。
      仮にも自分の同位体であり年上でもあるというのに、あまりにも無防備かつ無邪気な有様だとクロは思った。
      しかしクロは自分ももしかしたらこのような生き方ができていたのかもしれない、とは思わない。
      ふたりの間には異なる人生の分岐点があって、そこで道を違えたがために今クロはクロという別個体としてシロに逢うことができ、その無垢さを存分に愛せるのだから。
      ……とはいえ気の赴くままに寄り道ばかりするシロに合わせていてはいつまで経っても目的地に辿り着かない。
      そこでクロは一計を案じた。
      咲き乱れる秋桜の紫と白を一本ずつ手折り、紫をシロの髪に、白をクロ自身の髪に挿したのである。
      「花が見たけりゃンバラがつけてんのでも見てろです」
      恥ずかしさから絶対直接は言わないが、要は「自分だけ見てろ」という少女漫画王道のアレである。そういうことには敏いシロがすぐに察しないわけはない。
      はわわ……とばかりに頬を赤らめ、モジモジチラチラとクロを見やるシロはそれはもう大層愛らしかったが、今度は歩みが止まってしまってやはり先に進めない。
      待っていても埒が明かない。そう思ったクロはシロの手を引き「ほら、早く行くですよ」と半ば強引に歩かせ始めたのだった。

      シロが目的地に設定した場所は高原の中でも見晴らしがいい、しかしながら聳え立つ一本の大きな木が程よく日差しを遮ってくれる、まさにピクニックの終点には相応しい場所だった。
      シロは用意してきたレジャーシートを広げ、真ん中に満を持してお重のお弁当を置く。
      その想定外の大きさに一瞬クロが目を見開いたような気がしたが、シロは気にせずお重を開いて弁当を展開していった。
      三重のお弁当箱には、三段目にはさまざまなおにぎり、二段目には色とりどりのおかず、そして一段目には甘いもの好きのクロのために果物を始めとしたデザート類が詰められていた。
      二人分にしてはやや多いと言わざるを得ないが、お互いの好物を集めたらこうなってしまったのだ。急ぐものでもないし、ゆっくりと談笑しお茶でも飲みながら食べればいいだろう。
      二人は「いただきます」と手を合わせてから弁当に箸を伸ばした。
      まず卵焼きに手をつけ、口に放り込んだクロの顔が僅かにほころんだのを見て、シロは内心ガッツポーズをする。
      何しろクロ好みの味付けを狙って作ったシロの会心作なのだ。喜んでもらえて嬉しくないわけがない。
      もちろん卵焼きだけではない。自分の好みで入れたものもあるが、どれもクロの口に合うように味付けしてある。
      「……いつも通り、シロの飯はうめーですね」
      そんなシロの苦労を知ってか知らずか、クロは心からお弁当の出来栄えを褒めてくれた。
      そのさりげない言葉だけで、シロがどれだけ有頂天になったことか。
      ──火星に来た頃は無一文で頼れる人もなく、ただ生きていくことに必死だった。
      それが今や糊口をしのぐには十分すぎるほどの収入を得られる仕事を得て、クロという伴侶も得て、休みの日にはのんびりピクニックもできる。
      こんな幸せがあっていいものだろうか。
      これは夢なのではないか、本当の自分はまだ脱出ポッドの中でコールドスリープしていて宇宙を彷徨っているのではないかと思うこともある。
      けれどこれはまぎれもない現実なのだ。髪を優しく撫でる火星の乾いた風がそう教えてくれる。
      シロはクロと共に温かいお茶を啜りながら、今ここにある幸せを噛みしめたのだった。

      おわり
    • お題
      こんふぃちゃん達のお布団ファッションショーというか、お布団談義というか、そういうのがみてみたいです。

      様々な柄のお布団が出てきたり、
      お布団の代わりになるものはないかと
      テーブルクロスやカーテンをかぶってみたり。
      2人で入れるお布団を作ろうとして、二人羽織状態になったり……
      わちゃわちゃしている様子が見られたらなあ、と思います。
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      きょうか
      @kyoka_h
      祠──それは神仏を祀る神聖な小建築物である。人の手が入りにくい場所に置かれ、ひっそりと人々を見守るものであり、壊せば祟りがあるなどのいわくがついて回るものである。
      主に地球は日本で見られるものであり、神仏なき火星では無縁の存在である──と思われていたのだが。
      最近火星のとあるターミナルではその「祠」が見つかり、近づけばとんでもない祟りがあると評判になっていた。
      曰く、祠に近づこうとすると巨大な化け物に遮られたとか。
      曰く、近づいた者は悉く神隠しに遭って後日異なるターミナルで放心しているところを発見されたとか。
      普通ならそんな話を耳にしたならば、近寄らないようにしようと思うものだが、逆にじっとしてはおれない困った$[ruby 癖 ヘキ]を持つ者がいる。
      火星きってのオカルト好き、前山 $[ruby 白 あきら]はそういった厄いスポットの噂を聞きつけてはトラブルを厭うことなく訪い、時には期待を裏切られ、時にはそれなりに奇妙なことに巻き込まれながらも決してオカルトスポット探訪を諦めない変わり者なのであった。
      そういうわけで前山は、意気揚々とその噂の祠へと向かったわけである。
      件の祠はターミナルの外れ、居住区と荒野を隔てる壁のほどなく近くにあるらしい。
      荒野へと向かう幹線道路からも外れたところにぽつんと建っているというのも、実に祠らしい。
      果たして火星の祠に祀られているのは何者なのか。原生民がかつて(あるいは今も)信奉していた旧き神か、それとも気まぐれに火星に降り立った外つなる神か。
      前山は、感情が読めないと評判の三白眼を未知との遭遇を思ってきらきらと輝かせながらターミナルの外れへと向かったのだった。

      そうして彼が発見した祠は、石造りのなかなか立派な代物だった。
      何故か切妻屋根がふたつついていて、見方によっては猫のように見えなくもないが、前山の背丈より僅かに低いだけのそれは祠にしては大型で、これを建てたものたちの深い信仰を窺わせる。
      「……でもこの祠、何かに似てる気がするんだよな……それに、建てられてからそんなに経ってない気がする」
      怪異に邪魔されることもなく祠と対峙した前山は、しげしげとその造形を眺めながら首を傾げた。
      伝統的宗教観に基づいて建てたのならこのような風変わりな造形にはしないだろうし、かといって火星で怪しげな新興宗教が興ったという話も聞かない。
      他に考えうる可能性は入植民から祠の話を聞いた原生民が真似をしてそれらしきものを建てたというあたりだが……
      (ん……? 原生民……?)
      前山の脳裏に、火星で今まで遭遇した数々の怪異が蘇った。
      一度行ったら二度と戻れないと言われる路線図にない無人駅で、笛や太鼓を鳴らしてお祭り騒ぎをしていた$[ruby 原生民 blobcatcomfy]。
      サンドワーム発見の報を聞いて駆けつけた荒野でのたくっていた恵方巻き型(と後に分類されるようになった)$[ruby blobcatcomfy こんふぃ]。
      いわくありげな蔵で発見したいかにも怪しい封印されていた箱から無限湧きしたのもこんふぃだった。
      「……そうだ、この祠、こんふぃに似てるんだ」
      前山はハッとしたように呟いた。
      ……ということはこの祠はこんふぃが建立したのか、あるいはこんふぃを神と信奉する変わり者が建立したのか。
      どちらにせよ、ここで人々が遭遇したという怪奇現象はこんふぃの手によるもので間違いない。前山の経験に裏打ちされた勘はそう告げていた。
      「あいつら集団で飛んだり、ブレーメンの音楽隊の真似事したり、何でもアリだからな……」
      前山は今までに遭遇した怪異(便宜上)を思い出してため息をついた。
      多分この祠も、開けたら大量のこんふぃが出てくるとか、あるいはこの祠そのものが新種のこんふぃだったとか、そういうオチだろう。
      しかしそこまで予想していても、何もせずおめおめと引き返すようなことは決してしないのが前山白という男であった。
      えぇい、ままよ!
      前山は思い切って祠の扉を開く──
      ──と同時に中から溢れ出した色とりどりの布の山に襲われ、のけぞり、どうと尻もちをついた。
      「……?!」
      何が起こったのか理解できず、前山は一瞬呆然とする。
      オーソドックスな型ではあるが模様は様々なこんふぃ用おふとんの山が前山の膝の上に雪崩れこみ、まだ縫われていない花柄のハギレやパイピング用のテープが宙を舞う。
      おまけにどこから持ってきたのか人間用サイズのテーブルクロスやカーテンまで出てきて、風に煽られたそれらがばさりと前山の頭を直撃して覆いかぶさった。
      正直これがスカートの類でなくて良かったと思う。
      「オカルト好きの人」なら前山にとってはむしろ褒め言葉だが、「スカートをかぶった人」となるとただの変態の謗りをうけてしまうからだ。
      しかし何だって祠の中に布きれなんか──
      そう思っていると、背後から原生民特有の訛りのある発音で叱りつけられた。
      「アンタ、ほこら開けたらダメ習わなかたノ!」
      振り返るとそこには裁縫道具を抱えた1匹のこんふぃが怒りを露わにして立っていた。
      「えっ……あ……サーセン……」
      「サーセンちがう、ゴメンナサイでしょ!」
      「……ゴメンナサイ……」
      祠の扱いに対してだけでなく、言葉遣いにまでダメ出しをされてしまった前山は、複雑な気持ちを隠せない。
      「ゴメンナサイしたら片付け手伝う、イイ?」
      「……うっす……じゃなかった、ハイ……」
      こうして自分の身長の半分以下のこんふぃに気圧されて、前山は散らばってしまった布たちを片付ける羽目になった。
      「けど何だって祠の中にこんなに布を……?」
      多分このこんふぃが祠の管理者だろうとふんだ前山は、叱られの後始末をしている最中にも関わらず、好奇心からこんふぃに尋ねてみた。
      するとこんふぃから返ってきた答えは──
      「祠、大事なものしまうネ! ファッションショーのおふとん、とても大事! だから祠作て仕舞うした!」
      「……ファッションショー、するんすか」
      「そうヨ! みんな楽しみしてる、たいせつな祭りネ! 手伝うするなら特別に見せてイイヨ」
      ……なるほど。祠は大切なモノを収める場所なのは間違いない。
      そしてこんふぃたちにとって自らを着飾るおふとんは大切なモノに違いない。
      だけどそれって。
      だけどそれって。
      「そういうのはクローゼットにしまった方がいいんじゃないスかねぇ?!」
      ──衣類をしまうのは祠じゃなくてクローゼットなんだよなぁ!!
      そう、祠と噂されていたこの石造りの小建築物は、こんふぃたちのファッションショー用のクローゼットだったのであった。
      とはいえ前山が禁忌を破ったのは事実。
      彼はその代償として散らばった布たちをかき集め、ついでに仕立ての手伝いもさせられ、元はカーテンやテーブルクロスなどだったカラフルなおふとんに身を包んで練り歩くこんふぃたちの姿を見物し、最後には自分も特大のおふとんを着せられてモデルウォークをすることになってしまったのだった。
      不用意に祠に触れると祟られる──前山はそれを身を以て理解した。
      だがそれで彼が懲りたかというとそれはまた別の話である。
    • お題
      火星のオカルト好きの人と、こんふぃちゃんがみたいです!シュチュエーションとかはお任せいたします!
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      きょうか
      @kyoka_h
      今朝もいつも通りに出勤し、納品された材料のチェックをする。
      こんふぃ焼き屋でバイトをしている火星のオカルト好きの人こと前山白は、淡々と箱の中身を確認しては冷蔵室に運び込む力作業をしていた。
      一箱、二箱……
      「……一箱多くないか?」
      店長から渡された発注書と照らし合わせ、納品の段ボールが一箱多いことに首を傾げる。
      数え間違えただろうか?
      それとも業者が間違えて多く納品したのだろうか?
      何はともあれ、中身を確認してみないことには始まらない。
      前山は段ボールを開ける──

      そこにはみつしりとこんふぃが詰まっていた。
      こんふぃ、すなわち主に灰色のおくるみを着た黄色い猫の生首のような生命体である。
      それが箱の中でぷにゃぷにゃと鳴いていた。

      ──迷わず箱をそっと閉じる。
      「……俺は何も見なかった。うん」
      しかし一度封切られた箱である。
      押さえた手の下から、ぷにゃぷにゃ鳴きながら一斉に外に出ようとしているような圧力が感じられた。
      こんふぃが詰まった謎の箱。オカルト的には悪くない。とはいえ。
      「この星のオカルト、こんふぃ絡みが多くないか?」
      というかこんふぃ絡み以外のオカルトを見たことがない気がする。
      曰く付きの無人駅に着けばこんふぃがわちゃわちゃとお祭り騒ぎをしているし、UMAかと思えば恵方巻きタイプのこんふぃだったし、都市伝説よろしく「今あなたの後ろにいるの」と電話をかけてきたのもこんふぃだった。
      「つーか前にもこんなことあったな」
      あれは蔵の中にあるいかにもいわくがありそうな箱を開けた時のことだったか。
      箱からこんふぃがとめどなく出てきて収拾がつかなくなったのを覚えている。
      ……いやもうこの際何か曰くがありそうなものに遭遇したら悉くこんふぃだったというのはそれはそれで構わない。何だか火星っぽいし。
      けれど曰くもなにもない、しかもバイト先の大して広くもないバックヤードでというのは正直勘弁してほしい。
      「ま、待て! 今箱ごと外に出すから! 出るのはもう少し待て!」
      前山は片手で段ボールの天面を押さえながらもう片方の手でガムテープを取り、箱がすぐには開かないように一文字に貼り付けると、両手に箱を抱えてバックヤードのドアを蹴り開け外へと急いだ。
      持ち運ぶうちに箱は明らかに重みを増していく──さながら子泣き爺のように。
      これは箱の中でこんふぃが増殖しているパターンだ。間違いない。
      さっき一度開けた時点で既にみちみちに詰まっていたというのに、そこからさらに増えているというのか。こいつらの質量はどうなってるんだ。
      腕力の限界に挑戦されながらも前山はどうにか勝手口から裏路地に出ることに成功し、サイズと明らかに見合わない重量になった段ボールを地面に下ろす。腕が限界だったのでやや乱暴な下ろし方になってしまったが、それは正直許してほしい。
      すると待ってましたとばかりに箱がぶち破られ、中からこんふぃが雲霞のごとく湧いてはおふとんをはためかせながら飛び出していく。
      みな、前山の周りを一周してから上空に舞い上がっていったため、気分はさながらイワシトルネードに巻き込まれた小魚のようだ。
      イワシトルネードならぬこんふぃトルネードに巻き込まれること数十秒、ようやく視界が晴れた時にはこんふぃたちは既に散開していたのか空を見上げても姿は見当たらず、空になった箱の底には一着の人間サイズのおふとんが残されていた。
      「……これを着れば俺も飛べたりするのか……?」
      わくり……と好奇心が疼いたが、バイト中だったことを思い出し、前山は一旦その衝動を収め、畳まれたままのおふとんと空の段ボールを抱えて店のバックヤードへと戻っていった。
      箱の中に最後に残っていたおふとんが、希望をもたらすものだったか、絶望をもたらすものだったか、それは前山のみぞ知る。

      おわり

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以下の内容で送信します。
投稿の際にはお題の投稿に関するルールをご確認ください。
禁止事項に触れる投稿を行なった場合、相手の要望であなたの情報を調査・報告する場合があります。